_ 金曜日、どのくらいの速さで生きればあの人たちに逢えるのだろうと北の大地を目指す。途中、2週間かけて書いた手紙を強風でホームから飛ばされ絶望感に苛まされたり、降雪での電車の遅延で2時間ほど立ち往生したりして、もう待っていないで帰っていて欲しいなと思いながら空腹や1分が一生に勝る苦痛を耐え続ける。なんとか目的地に駅に着いたときはもう23時を越えていた。ふたりは身を寄せ合いながらストーブの前の椅子で待っていてくれた。僕は握り締めた拳に涙を落とし続けた。駅の待合室で「これ、私が作ったので美味しくないかもしれないけれど」と差し出されたたこ焼きを頬張りながら、こんなに美味しいものははじめて食べたよと僕は今日はじめての笑顔を見せる。駅員さんが電車も終わったのでここはもう閉めますよというのでお礼を言って雪が舞い落ちる外へ三人で歩き出す。彼らのHOMEまでに行く途中、大きな桜の木の下を通りそこで彼女が降りしきる雪を見上げて「まるで雪みたいだね」とむかし桜の木の下で言った言葉を呟く。僕らはいつしか肩を組み合う。そのとき僕は永遠とか世界の経済の仕組みとかがわかったような気がした。そして彼らの養子には行けないんだと分かり悲しみが僕を急速に支配した。だけどその後彼らの肩の重みが僕の感傷を癒していった。その日僕らは桜の木の近くの納戸で語り合いながら一夜を過ごした。別れの朝、ホームに立った僕ら三人は黙ったままだった。やがて電車が来て僕が乗り込むと彼らは「キミはこの先もきっと大丈夫だよ」「やさぐれても大丈夫だよ」と言ってくれている。僕はこみ上げる想いを口に出来ないまま「手紙書くよ」「歯磨くよ」とありきたりな言葉を発する。やがて電車は僕の想いを乗せたまま走りはじめる。